今、若者を中心に急速に普及が進んでいるプリペイドカードアプリがある。
2016年9月16日に株式会社カンムがリリースした『バンドルカード』だ。
アプリインストール数は40万ダウンロードを超え(2018年5月時点)、今年4月には、後払いチャージサービス『ポチっとチャージ』も開始された。
今回は、株式会社カンムの八巻渉代表取締役社長(以下、八巻社長)に、バンドルカードの魅力や活用方法、開発秘話などについてお話をおうかがいする。
目次
1分で発行できる「バーチャルカード」
バンドルカードは、アプリベースのVisaプリペイドカードだ。
利用手続きは、通常のクレジットカードやほかの各種カードと比較しても、格段にシンプルである。
手持ちのスマートフォンからアプリのダウンロードをおこない、ユーザーID、パスワード、生年月日、電話番号を登録すれば『バーチャルカード』と呼ばれるアプリ上のカードが即時発行され、すぐに利用できる。
審査は不要で、発行手数料や年会費なども一切かからない。
八巻社長は、バーチャルカードについて次のように語る。
-八巻社長
「バーチャルカードのもっともわかりやすい活用シーンは『クレジットカードを持っていない人がネット決済をおこなうとき』です。クレジットカードを持たない人がネット決済をする場合、代引きやコンビニ決済のほか、iTunesやAmazonのギフト券をコンビニで購入しチャージして支払うという形が多いでしょう。ですが、それだと手数料がかかったり、カードを購入する手間がかかったりしてしまいますよね。
バンドルカードのアプリをダウンロードして登録・チャージをするだけで、手数料もかからずスムーズにネット決済ができます。チャージは、コンビニや銀行のATM、クレジットカード、ネット銀行などからおこなえます。
アプリのダウンロードからバーチャルカードの発行まで1分程度でおこなえることから、我々は『もっとも速くつくれるVisaカード』という呼び方をしています」
誰でもその場でカードを発行でき、チャージをすればすぐにネット決済ができる。
その手軽さと迅速さ、公平性が、バンドルカードの最大の魅力だ。
実店舗で使える「リアルカード」「リアル+(プラス)カード」
バーチャルカードは主にネット決済での利用が対象だが、コンビニやスーパー、飲食店などの実店舗で使えるプラカードタイプのカードもある。
『リアルカード』と『リアル+カード』の2種類だ。
いずれも通常のクレジットカード同様、Visaの加盟店で利用が可能。アプリ上で住所を登録し、リアルカードは300円の発行手数料、リアル+カードは本人確認と600円の発行手数料を支払えば、カードが自宅に発送される。
バーチャルカードとリアルカードは連動しているため、カードが届いたあとは裏面に氏名を記入すれば、そのまま実店舗で使うことができる。
-八巻社長
「リアルカードとリアル+カードの大きな違いは、残高の上限金額と、海外利用、宿泊施設やガソリンスタンドなどでの利用の有無です。通常のリアルカードはチャージ残高の上限が10万円に対し、リアル+カードは100万円のため、多めにチャージしておきたい人には便利です。リアルカードは国内のVisa加盟店のみですが、リアル+カードは海外の実店舗でも使えるため、旅行や留学などで海外へ行く時に最適です。
また、リアルカードはプリペイドカードの仕組み上、ガソリンスタンドや宿泊施設、たとえばホテル内のレストランやコンビニなどでは使えませんが、リアル+カードはこれらの場所でも利用できます」
リアルカードとリアル+カードの発行割合は、ほぼ同じとのこと。
用途や目的に応じて、実店舗で使えるカードを低額で簡単につくれることも大きなメリットといえる。
幅広い層が活用できるカード
若者から圧倒的に支持されているバンドルカード。実際に、ユーザーの約8割が25歳以下だという。
-八巻社長
「開発当初のターゲットは、クレジットカードは持てないけれど、ネット決済をおこなう機会の多い高校生を想定していました。今、学生は『メルカリ』や『フリル』などのフリマアプリを使って、少しでも安く欲しいモノを手に入れる傾向が強いため、『バンドルカードは手数料がかからないので嬉しい』という声は、よくいただきますね。
あと、これは想定していなかったのですが、『Qoo10』のように、そもそも代引きのない海外ECサイトを利用する若い子も多いので、その点でも、バンドルカードの存在は助かるようです」
ただ、バンドルカードは基本的には幅広い層にニーズがあるカードだ、と八巻社長は確信している。
-八巻社長
「以前、弊社が独自におこなったアンケート調査では、20歳以上のクレジットカードの保有率は47%程度と、全体の半分以下でした。クレジットカードは持っていないけれどカードをつくりたい、使いたいという成人の方は、ぜひバンドルカードを活用していただきたいですね。新たに開始した『ポチっとチャージ』のサービスも、主に20代以上をターゲットにしています。
また、シニア層のユーザーもいらっしゃいます。会社を定年退職した後は新たにクレジットカードを申し込みにくくなるためです。カードを持ちたいというニーズも多く、たとえば『マルエツプチ』などの都市型スーパーマーケットや、回転寿司屋などの場所でご活用いただいているようです」
ほかにも、クレジットカードを紛失したが再発行が面倒という理由や、クレジットカードを保有しているが、海外EC利用時のスキミング防止のためにバンドルカードを利用するユーザーもいるそうだ。
紛失時もアプリ上から停止・再発行可能
バンドルカードの利用にあたっては、気をつけておくべき点もある。
まずは、口座維持費。
カードを4ヶ月間利用しないと、月100円が引かれる。
ただし、4ヶ月が近づいてくると、プッシュ通知やSNSなどで何度も告知が届くため『気づかずに4ヶ月経ってしまった』ということは少なそうだ。
また、口座維持費は近く廃止される予定とのことなので、それほど懸念する必要はないだろう。
クレジットカードを持たない人に多いのが、「不正利用が心配」「紛失・盗難のリスクが怖い」という声だ。
バンドルカードはプリペイドカードだが、そのあたりはどうなっているのだろうか。
-八巻社長
「たとえば、リアルカードを落としてしまったとき、拾った誰かがカードを勝手に使うと、ユーザーのスマートフォンにプッシュ通知が届くようになっています。使っていないのにプッシュ通知が届いた場合、すぐに弊社に連絡してもらい、不正利用の確認が取れれば、加盟店への返金請求をおこなうことができます。
あとは、アプリ上でカードの利用停止ができるため、落としてしまったときにすぐ利用停止をすればそのカードは使えなくなります。利用停止も再発行もアプリから簡単におこなえますから、普通のクレジットカードよりも、リスクは少ないと思います」
これまでカードを持ったり使ったりしたことがない人でも、利用にあたりさほど大きな心配はなさそうである。
YouTuberを起用したプロモーションで会員数急増
バンドルカードは、およそ9ヶ月という短い開発期間で完成した。
開発中に苦労した点について、八巻社長に聞いてみた。
-八巻社長
「社内でおこなったバンドルカードのアプリ開発自体は、実はそれほど大きな問題なく進みました。それよりも、カード会社や印刷工場、弁護士など、複数のプレイヤーとのやりとりや調整のほうが大変でしたね。たとえばカードの券面であれば、理想の色を表現するのが物理的に難しかったり、カード会社の法務部からさまざまな質問を受け、対応したり。あとは、ベンチャーである弊社と、大企業とのスピード感の違いやすり合わせなどにも時間がかかりました」
さまざまな苦労を経て、無事リリースされたバンドルカード。
現状からは信じられないが、リリースからしばらくは、インストール数が伸びず悩んでいたという。
-八巻社長
「リリースから半年間くらいは、1日に数十人程度しか会員が増えなくて『どうしよう』という感じでしたね。都内に住む、ごく一部の感度の高い人にしか知られていない、ダウンロードされていないという状況でした。原宿の竹下通りや10代限定のハロウィンパーティにブースを出すなど、若者向けにいわゆるオフラインのキャンペーンをおこないましたが、ほとんど効果がありませんでした」
飛躍的に会員数を増やすきっかけになったのが、ターゲット層と同年代の若手YouTuberによるプロモーションだ。
-八巻社長
「もともと、『広告にYouTuberを使いたいよね』という話は社内で出ていました。かけられる予算があまりなかったのですが、マーケティング担当が、予算内で引き受けてくれる子を探してきてくれて。結果として、一回の動画で約2万人もの新規会員を獲得できました。『このプロモーションはターゲットにハマる』と確信し、それからは月に6人くらいのYouTuberに依頼して、半年くらいかけてプロモーションをおこないました」
クレカとの併用で小遣いや家計管理に活用できる
八巻社長自身は普段、バンドルカードをどのように利用しているのだろうか。
-八巻社長
「基本的には、自分のお小遣い管理にバンドルカードを使っています。加盟店・日付・金額といった利用明細をアプリでチェックできるので、いつ何にいくら使ったかが一目でわかるので便利です。クレジットカードからチャージをすればクレジットカードのポイントが貯まるので、その点でもお得です。
ひとり暮らしや既婚者の方ならば、バンドルカードに月のお小遣いや生活費を入れて管理をおこなう、というのもおすすめの使い方ですね。あとは、家族に明細を見られたくない買い物をするときのカードとして持っていただくとか(笑)」
確かに、1枚のクレジットカードでさまざまな支払いをおこなう場合は、明細に複数の項目が混在するためお金の管理がしにくい。
また、つい使いすぎてしまうこともあるだろう。
バンドルカードならばリアルタイムで明細を見ることができるうえ、チャージした金額以上は使えないため、予算内でお金を使うことができる。
後払い式の『ポチっとチャージ』
今年4月17日から新たにスタートしたサービスが、『ポチっとチャージ』。
アプリ上から金額を入力すると、手元にお金がなくても3千円~2万円までチャージをすることができる、後払いチャージの仕組みだ。
-八巻社長
「以前から、『ユーザーの後払いチャージのニーズは高いのではないか?』と考えていました。たとえば自宅でネット決済をおこなう時に、バンドルカードにチャージをするためだけにわざわざ家を出ることが面倒だと感じる人は多いと思います。バンドルカードを登録してカードが届くまでは自宅でできても、コンビニやATMなどでチャージをおこなう場合、どうしても外に出る必要が出てくる。自宅で決済を完了させ、後から支払う仕組みを作れたら良いのではないか、と思ったんです。
このポチっとチャージのサービスで、バーチャルカードの登録からチャージ・ネット決済までを3分程度で、しかもすべて家の中で完結することが可能になりました。ここまで速いのは、バンドルカードが世界初だと思います。支払いも利用月の翌月末と長めに設定されているため、お給料やバイト代が入ってから支払いができます」
外出中であれば苦にならないチャージも、自宅にいると手間に感じる人は少なくないだろう。
また、自宅の近くにコンビニやATMがない場合はさらに大変だ。
ポチっとチャージならば、家から出ずにネット決済を済ませることができる。
チャージの上限が1ヶ月2万円と低額なため、『使いすぎて後から支払えなくなってしまった』という可能性も低い。
ネット決済はもちろん、欲しいモノを見つけた時やプレゼントを買いたい時など、「今は手持ちが足りないけれど、ちょっと使えるお金があると嬉しい」という時にも役立つサービスだ。
注意点は、審査と手数料の2点。
バンドルカードは誰でも登録・利用できるが、ポチっとチャージは利用時に審査がおこなわれるため、サービスを利用できないユーザーもいる。
また、チャージ金額3千円~1万円までは500円、1万1千円~2万円までは800円の手数料かかることも知っておこう。
「カードをつくれない・持てない」人が存在しない社会へ
そもそものバンドルカードの原点は、八巻社長自身の実体験にあるという。
-八巻社長
「起業をしたとき、クレジットカードがつくれないという経験をしました。たとえば大企業に長年勤めていた人でも、会社を辞めた瞬間に、それこそ家の賃貸契約もできないくらいまで信用が下がってしまうんです。会社員をしていたときより、年収が上がったとしてもです。
そのことに対して、『会社を辞めて起業をしたことで、自分の与信が下がるわけがないじゃないか』と、非常に憤りを感じたんですね(笑)。これはナンセンスだな、と思ったんです」
起業してからは、CLO(カード決済連動サービス)のデータ解析のエンジニアをおこなっていた八巻社長。
業界のルールや仕組みを理解していく中で、あらためてクレジットカードの与信モデルに疑問を感じるようになった。
-八巻社長
「たとえば未成年、無収入、金融事故を規定の回数以上起こしている人は、もれなく審査に通らないとか。そういう古い仕組みのせいでクレジットカードをつくれなかったり、使えなかったりする人が出るのはフェアではないし、時代にそぐわないのではないかと思ったんです。
あとは、これからはいろいろなものがネット決済化されていくのではないか、と考えたことも理由です。たとえば、学校の教科書が紙ではなくipadなどになり、生徒がネットを通して章ごとに購入する、ということになり得るのではないかと。そのときにカードが普及していなければ不便だし、カードを持っていないがために、カード決済ができる人とできない人が出てきたらおかしいよね、と。小中高生が使えるクレジットカードは、現状存在しないですから。」
格差をなくし、すべての人がキャシュレス決済の恩恵を受けられる社会のために、バンドルカードは大きく貢献している。
使いやすさ・安全性・改善スピードに優れる「時代に合った」カード
バンドルカードの現状の課題や問題に対しても、積極的に改善を考えているという。
-八巻社長
「ここ最近でリアルカードの発送スピードを上げました。これまでは、申し込みから4日以内には発送をおこなうようにしていたのですが、地域や郵便局の都合によっては到着までにやや日数がかかっていました。申し込みからカードの到着までの時間をより短くして、そのスピードをユーザーに感じてもらえたらと思っています。具体的には、平均5日以内にはリアルカードがユーザー側で有効化されていることが確認できています。
あとは、銀行側の仕組みの問題もあるので今すぐにというわけにはいきませんが、いずれはオートチャージ機能も実現させたいですね。また、公共料金や月額課金の支払いもバンドルカードでおこなえるようにするために、将来的に対応していけたらいいな、と考えています」
最後に、これからカードをつくりたいと考えていたり、バンドルカードに興味があったりする読者へ向けて、八巻社長からメッセージをいただいた。
-八巻社長
「『バンドルカードを、ユーザーにとって一番便利なカードにしていきたい』と、開発当時から現在までずっと考えています。改善スピードも速いですし、バンドルカードはこれからも、あらゆるカードの中でもっとも使いやすいカードでいつづけると思います。
カードを持っていない方のファーストカードとしても、すでに別のカードを持っている方も、つくって損はないとお約束します。『バンドルカードを使ってみて、他のカードの不便さがわかった』という声もあり、離脱率も少ないカードですので、安心してお使いいただけるはずです」
「クレジットカードを使いたいのにつくれない」「クレジットカードを持つのが不安」「今すぐにつくれるカードが欲しい」―バンドルカードはそんなユーザーのニーズにこたえる、これからの時代に即したカードでありつづけることは間違いない。
(手塚巧子)