改札もレジもないバスで、財布もスマホも取り出さずに運賃を払える。JCBとりそなグループが進めてきたUWB決済の実用化に、バス運賃機器大手の小田原機器が加わり、実証から商用化までの道筋が具体化した。

バスの「スマホを出さない決済」へ、3社が協業覚書を締結
株式会社ジェーシービー(JCB)、株式会社りそなホールディングス(りそなグループ)、株式会社小田原機器の3社は、2026年7月9日、バス向けのUWB(Ultra Wide Band)決済の実用化に向けた「UWB決済に関する協業覚書」を締結した。
この取り組みは、JCBとりそなグループが2026年3月4日に締結したUWB決済の基本合意書を土台にしたものだ。今回、国内の路線バス向け運賃収受機器で高いシェアを持つ小田原機器が加わったことで、決済の仕組みだけでなく、実際にバスへ搭載する機器側まで含めた開発体制が整った形になる。
読者にとっての意味はシンプルだ。将来、対応バスではスマホをかばんやポケットに入れたまま乗り降りするだけで運賃の支払いが済むようになる可能性がある。ただし後述の通り、これは今すぐ使える話ではなく、数年かけて実用化を目指す段階のニュースである。
UWB決済とは何か、NFCや二次元コードとの違い
UWBは超広帯域無線通信技術の略称で、非常に広い周波数帯を使う無線通信の方式だ。Wi-Fiなどと同程度の距離で通信でき、短いパルス信号を使って高精度な位置測位と近距離での高速通信を実現するとされる。
数十メートル離れても位置を特定できる
現在主流のタッチ決済に使われるNFCは、数センチから最大10センチ程度の近距離でしか通信できない。これに対しUWBは、数十メートルの距離があってもデバイスの正確な位置を特定し、高速で通信できるのが特徴だという。この「離れていても正確に位置がわかる」という性質が、改札やレジのない乗り物での決済に向いているという発想だ。
かざす・読み取る動作がいらなくなる
タッチ決済は端末にカードやスマホを近づける必要があり、二次元コード決済は画面を開いて読み取ってもらう手間がある。UWB決済は、端末から離れた位置でも通信が成立するため、こうした「かざす」「読み取らせる」といった動作そのものを省ける点が従来の決済手段と大きく異なる。
なぜバスなのか、運転手不足という背景
改札や店舗のレジではUWBの活用が期待されつつある一方、改札もレジも持たないバスや路面電車といった公共交通向けのソリューションは十分に整っていないと3社は指摘する。
背景にはバス業界の事情がある。運転手の不足や高齢化が進むなか、現金・IC・コード決済など多様な支払いへの対応や、運転以外の乗客サポートが現場の負担を増やし、混雑時には定時運行にも影響しかねないという課題だ。乗降時の決済対応から運転手を解放できれば、運転そのものに集中できるというのが、バスにUWB決済を持ち込む狙いといえる。
2028年度の本格実用化に向けたスケジュール
3社はバス事業者とともに実用化プロジェクトを開始し、2026年度から技術実証に入る。想定されているスケジュールは以下の通りだ。
| 2026年度 | 技術実証を開始 |
| 2027年度 | 小規模商用化 |
| 2028年度 | 本格的な実用化 |
あわせて、既存のバス設備にも導入しやすい仕組みづくりや、鉄道・店舗との連携を視野に入れたシームレスなサービスの実現も目標に掲げている。まずはバスから始め、将来的には交通と買い物をまたいで使える決済へ広げていきたい、という構想と読み取れる。
利用者とバス事業者、それぞれに見込まれる変化
利用者はハンズフリー決済とパーソナルな案内
利用者側の変化として3社が挙げるのは、乗降時に決済端末から離れていてもスマホを取り出さずに支払えるハンズフリー決済だ。さらに乗車履歴データを活用し、利用者に合わせた広告やクーポンの配信、ポイントの付与、バスの利用方法や運行情報の案内などを、スマホやバス車内のディスプレイを通じて受け取れるようになるとしている。
バス事業者は運転専念と混雑回避
事業者側では、運転手が乗降時の決済対応や問い合わせから解放され、運転業務に専念できることで安全性の向上や定時運行につながるという。加えて、スマホの正確な位置情報を使って車内の混雑状況を把握し、停留所で待つ人に空いているバスを案内するなど、混雑を避ける行動を促す使い方も想定されている。
実用化は2028年度目標、今すぐ使えるわけではない
注意しておきたいのは、これがあくまで実用化に向けた協業段階の発表だという点だ。技術実証の開始は2026年度、本格的な実用化の目標は2028年度であり、どのバス事業者のどの路線から始まるのか、対応する決済ブランドやスマホの条件などは現時点で示されていない。
また、UWBに対応する端末やアプリが利用者側に必要になる可能性も考えられる。実際に使えるようになる時期や対象範囲は、今後の実証の結果を待つ必要があるだろう。現時点では「バスの支払いがこう変わろうとしている」という方向性を押さえておくニュースと捉えるのがよい。
読者はどう受け止めるとよいか
タッチ決済が交通利用の主流になりつつあるなかで、UWB決済は「かざす動作すら不要にする」次の一手として位置づけられる。小田原機器はUWBの標準化団体であるFiRa Consortiumにも参画し、バス決済での技術・体験の標準化を進めるとしており、今回の3社の枠を超えて広がる可能性もある。
日常的にバスを使う人にとっては、数年後に乗車体験が変わりうる動きとして頭の片隅に置いておくとよいだろう。一方で、当面の交通系の支払いはタッチ決済やモバイルICが中心であり、今の決済手段を見直す必要はない。新しい技術がどの路線でいつ使えるようになるか、続報を待ちたい。















